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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)1367号 判決 1985年3月29日

第一三六七号事件原告・第三〇八七号事件被告 三和通商株式会社

第一三六七号事件被告・第三〇八七号事件原告 株式会社ジャパン・トレード・サービス

第一三六七号事件被告 極東技研工業株式会社

主文

一  三和通商はジヤパン・トレードに対し、金一〇四万六五〇〇円及びこれに対する昭和五八年五月一四日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  三和通商の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は三和通商の負担とする。

四  この判決は主文一項について仮に執行することができる。

事実

一  甲事件

1  当事者の求めた裁判

(一)  三和通商

(1) ジヤパン・トレード及び極東技研は連帯して三和通商に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年三月四日から完済まで年六分の割合による金員を払え。

(2) ジヤパン・トレード及び極東技研は別紙第一目録(2)記載の広告を展示してはならない。

(3) ジヤパン・トレード及び極東技研はその所有にかかる右広告の紙型を廃棄せよ。

(4) 訴訟費用はジヤパン・トレード及び極東技研の負担とする。

(5) この判決は仮に執行することができる。

(二)  ジヤパン・トレード及び極東技研

(1) 三和通商の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は三和通商の負担とする。

2  三和通商の請求原因

(一) 三和通商は昭和五三年初め広告代理業者のジヤパン・トレードに委託して、大阪商工会議所発行にかかる海外向けの「OSAKA BUSINESS DIRECTORY 1978―79」(大阪事業名簿一九七八―七九年版)特別三ページ(序文の裏、目次の左ページ)の全紙面(縦二九・七センチメートル、横二一センチメートル)に、別紙第一目録(1)記載の広告(以下「本件広告(1)」という。)を掲載した。

ところが、極東技研は広告代理業者のジヤパン・トレードに委託して、別紙第一目録(2)記載の広告(以下「本件広告(2)」という。)を次のとおり掲載した。

(1) 昭和五五年初め大阪商工会議所発行にかかる海外向けの「OSAKA BUSINESS DIRECTORY 1980―81」(大阪事業名簿一九八〇―八一年版)特別三ページ(序文の裏、目次の左ページ)の全紙面(縦二九・七センチメートル、横二一センチメートル)に、別紙第一目録(2)添付の広告(2)―aを掲載。

(2) 昭和五八年初めジヤパン・イエロー・ページ社発行にかかる海外向けの「YELLOW PAGES JAPAN TELEPHONE BOOK 1983 SPRING」(イエロー・ページ日本電話帳一九八三年春季版)三四一頁の全紙面(縦二九・七センチメートル、横二一センチメートル)に、別紙第一目録(2)添付の広告(2)―bを掲載。

(二)  本件広告(1)は、思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物(著作権法二条一項一号)であるか、あるいはその素材の選択又は配列により創作性を有する編集著作物(同法一二条一項)として、著作権法(以下「法」と略称する。)上の保護を受けるものというべきである。

一般に絵はがき、広告、ポスター、カレンダー等は美術の著作物であると解されている。美術は純粋美術と応用美術に区分されることがあつてもそれぞれの概念やその境界が明確でなく、現行法の立法経過(昭和四一年四月二〇日付著作権制度審議会の答申四の2の(三)「ポスター等として作成され、またはポスター等に利用された絵画、写真等については、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。」)等に照らして、応用美術のうち法の保護を受けるものが美術工芸品(法二条二項)に限定される趣旨ではないと解される。創作性は、今までに何人も想像思考しえなかつたというようなものでなく、何らかの程度で他のものから区別できる特殊性があれば足り、あるいは著作者の個性が著作物に何らかの形で現われていれば十分である。本件広告(1)のような美術の著作物についての創作性の有無は、特にこれに表現されている書体、文章、語順、構成、意味内容その他全体的総合的な観察により判断されるべきであり、部分的断片的な観察による判断は相当でない。

本件広告(1)は、その制作過程においてジヤパン・トレードの営業担当員早川九州男(以下「早川」という。)や宮田叔育(以下「宮田」という。)が介在するけれども、その広告主である三和通商の業務部長中川文雄(以下「中川」という。)が主体となつて職務上創作し、素材の提供、レイアウト、完成の承認をして制作されたものであるから、結局法人著作(法一五条)として三和通商が著作者であり、本件広告(1)に表示された三和通商の名称により、その著作者が三和通商であると推定されている(法一四条)。仮に、本件広告(1)が三和通商単独の著作物でないとしても、三和通商とジヤパン・トレードないし宮田との共同著作物(法二条一項一二号、六五条)である。仮に、本件広告(1)の著作者が三和通商でないとしても、三和通商が右広告の制作発表に要した費用全額を負担し、又右広告がその性質上三和通商の名称を表示された三和通商のためにのみ効用を認めうるから、三和通商は、その著作者であるジヤパン・トレードないしは宮田から、黙示的に当然右広告の著作権の譲渡(法六一条一項)を受けたものといえる。

そうすると、ジヤパン・トレード及び極東技研は、共謀のうえ故意に三和通商には無断で、本件広告(1)の偽作・盗用(無断改作)である本件広告(2)を前述のとおり掲載発表して、三和通商が本件広告(1)につき有する著作者人格権及び著作権を違法に侵害したのであり、仮に三和通商が右広告の著作者ないし共同著作者ではないとしても、三和通商が右広告につき有する著作権を違法に侵害したのである。

(三)  仮に、三和通商が本件広告(1)について何ら著作権法上の権利を有しないとしても、ジヤパン・トレード及び極東技研が共謀のうえ故意に本件広告(2)を制作発表したことにより、ジヤパン・トレードについては、三和通商との間の本件広告(1)の広告委託契約に対する背信行為により債務不履行が成立し、又極東技研については、右契約における法的な保護に値する三和通商の利益に対する侵害行為により不法行為が成立する。すなわち、

三和通商は昭和五三年初め広告代理業者のジヤパン・トレードとの間で、本件広告(1)を大阪事業名簿一九七八―七九年版に掲載する旨の広告委託契約をなした。これにより、ジヤパン・トレードは、その積極的効果として、三和通商のため委託の趣旨に従い本件広告(1)を前掲書に掲載しなければならない義務を負うほか、その消極的効果として、三和通商と競業関係にある第三者のため三和通商の許諾なく広告代理業務をなすべきでなく(商法四八条一項参照)、もとより三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果(イメージ)を利用・承継させて、その営業権ないし営業上の利益を違法に侵害すべきでない契約上の義務を負う。

三和通商は長年にわたり、ジヤパン・トレードとの間の広告委託契約に基づき、本件広告(1)と同一ないし共通する思想や感情を創作的に表現した広告を業界紙や新聞など各種の広告媒体に継続的に掲載し、自己の営業を他に周知させる努力をしてきた。

極東技研は広告依頼主として広告代理業者のジヤパン・トレードと共謀のうえ故意に、昭和五五年初め及び昭和五八年初め本件広告(2)を前述のとおり掲載発表して、競業関係にある三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果(イメージ)を不正な方法で利用・承継し、三和通商の営業権ないし営業上の利益を違法に侵害した。

(四)  三和通商は、ジヤパン・トレード及び極東技研の前述の如き著しい侵害行為ないし背信行為により、営業権ないし営業上の利益に関する財産的損害のほか、その人格的利益に関する非財産的損害として、合計金二〇〇〇万円を下らない損害を蒙つた。

よつて、三和通商はジヤパン・トレード及び極東技研に対し、損害賠償金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年三月四日から完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払、並びに本件広告(2)の展示の禁止及び紙型の廃棄を求める。

3  請求原因に対するジヤパン・トレードの認否及び反論

(一)  請求原因(一)項は認める。

(二)  同(二)は争う。

本件広告(1)は、三和通商が同広告中に写真あるいは英語で表示された各商品を取り扱う事業者である旨の内容を、それ自体何ら創作性のない商品の写真、英語による商品の普通名称並びに図案化された鎖の輪及び石油採取設備を配列して表現したものに過ぎず、その創作性が全く認められないうえ、美術の範囲に含まれるものとも到底いい難いものである。原告は広告、ポスター等の類がすべて美術の著作物に該当するかの如く主張するが、広告、ポスター等の著作物性はあくまで個々の作品自体によつて決定されるべきものであり、この点前記のような表現態様、表現内容に過ぎない本件広告(1)を美術の著作物と解することはできない。美術の著作物とは、絵画、版画、彫刻等の純粋美術の作品や一品制作で作られる美術工芸品のような鑑賞の対象となるものに限られると解すべきところ、本件広告(1)が純粋美術の作品といい得ないことはもとより、一品制作で作られ鑑賞の対象となる美術工芸品と同視することもできない。又、仮に法による応用美術の保護が美術工芸品のみに限定されないとしても、その範囲は美術工芸品と同様、「専ら美の表現を追求したもの」あるいは「純粋美術と同視しうる美術的創作物」に限られると解すべきであろう。以上からみれば、本件広告(1)が美術の著作物に該当しないことは明らかである。

仮に本件広告(1)が著作物と認められるとしても、その著作権が三和通商に帰属したことはない。本件広告(1)は、ジヤパン・トレードの依頼によりデザイナーの宮田が創作したものであり、宮田が著作者であつて三和通商の法人著作ではない。仮に三和通商の担当者である中川が素材の提供及びレイアウトの指示をしたとしても、それだけで本件広告(1)の表現が完成されたものではなく、宮田が鎖や石油採取設備の図案を制作あるいは調達し、これらの素材の配列がすべて宮田の創作にかかるものである。一般に広告に関する著作権の帰属については明確な取り決め、慣習等は認められないようであるが、そのような取り決め、慣習がない以上、本件広告(1)の著作権についても、その権利者は現在に至るまで著作者である宮田であると解することが広告業界の通念に合致する。三和通商の負担した費用が本件広告(1)の広告掲載料と解され、通常広告のデザイン料が少額で著作権の譲渡の対価をも含むものとは解されないこと等からすると、三和通商が当然に本件広告(1)の著作権を譲り受けたと解することはできない。

仮に本件広告(1)が著作物に該当するとしても、その創作性の程度は低く個性的表現は僅少なものであり、著作権による保護を受ける範囲は極めて限定されたものと解すべきであり、その創作性は各素材の取捨選択及び配列の点においてのみ認められるに過ぎない。本件広告(1)の最も顕著な特徴は、画面中央に縦長の図案化された環状の鎖を配し、その外側に鎖に沿つて一八個の工具の部品の写真を配して一種の装飾とした点、及び鎖の内側上方にシルエツト状の石油採取設備の図案を配し、かつその脚部以下に暗色を配して鎖の内側の下方の過半を波ないしは海洋として表現した点にあるが、右の最も顕著な特徴にしても、本件広告(1)の本来の表現目的及び表現に使われる各素材の商品的特徴などからみて、決して独創的あるいは個性的表現とはいえず、その創作性の程度は極めて低いものである。他方、本件広告(2)の最も顕著な特徴は、画面の右上から左下にかけて斜めに図案化された環状の鎖を配し、この環状の鎖により画面を外側左上、鎖の内側及び鎖の外側右下の三つの部分に区分した点、及び鎖の内側に一七個の工具の部品の写真を配し、これを画面全体の中心とした点にあり、更に本件広告(1)と本件広告(2)の相違点として、本件広告(2)には画面の上下にワイヤーロープの図案が配されていること、本件広告(2)の石油採取設備及び波の図案はシルエツト状のものではないこと、本件広告(1)にはバルブの写真が配されているが、本件広告(2)にはフエア・リーダー及びパワー・ウインドラスの写真が配されている点が異なる。以上からみれば、本件広告(2)においては一部素材の共通するところがあるものの、本件広告(1)の著作物としての特徴とは顕著な差異があり、本件広告(2)において本件広告(1)の著作物としての特徴を認識することができず、本件広告(2)が本件広告(1)の著作権を侵害するものではない。

(三)  同(三)項は争う。

三和通商は、本件広告(1)に係る広告委託契約の消極的効果として、ジヤパン・トレードが三和通商と競業関係にある第三者のため、三和通商の許諾なく広告代理業務をなすべきでない義務を負うと主張する。しかし、右のような専属的関係を結ぶ特約でもあれば格別、一般的に通常の広告代理業者に右のような消極的義務を認めることは根拠がなく、広告代理店の通念にも反する。

更に、三和通商は、前記広告委託契約の消極的効果として、ジヤパン・トレードが、三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果(イメージ)を第三者に利用・承継させて、その営業権ないし営業上の利益を違法に侵害すべきでない義務を負うと主張する。しかし、右にいう「広告効果の利用・承継」が具体的にいかなる事実を指しているのか全く具体的内容を欠いており、仮に三和通商が主張する右消極的義務を認めるとすれば、本件広告(1)が有する漠然とした単なるイメージ自体を保護することになり、保護すべき利益のないところに保護を与えるものであつて明らかにゆきすぎである。しかも、本件広告(1)と本件広告(2)とを対比すれば明らかなように、それぞれに事業者名が明確に表示されており、右二つの広告から事業者の混同を生じるおそれは皆無であること、本件広告(1)とみられるものは、三和通商が同広告に表示された各商品を取り扱う事業者であることを観察者に印象づける点に尽きること、本件広告(1)(2)において一部共通する素材が使われているものの、両広告がその全体的特徴において顕著な差異を有することからすれば、本件広告(2)が本件広告(1)の「広告効果を利用・承継」したものではないことは明らかである。

(四)  同(四)項は争う。

4  請求原因に対する極東技研の認否及び反論

(一)  請求原因(一)項は認める。

(二)  同(二)項は争う。

法二条一項一号に定められた「美術」の範囲について、いわゆる純粋美術だけでなく一般に応用美術も含むかどうかについて、法文上からは明確でない。東京地判昭和五四・三・九判時九三四・七四は「応用美術については、純粋美術に最も近い実体をもつ美術工芸品だけを特に保護することにしたのである」と述べており、右判決による限り本件広告(1)は法による保護が受けられない。又、東京地判昭和五六・四・二〇判時一〇〇七・九一は、「応用美術であつても、絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるもの、すなわち客観的、外形的にみて、実用に供しあるいは産業上利用する目的のため美の表現において実質的制約を受けることなく、専ら美の表現を追求して制作されたものとみられる美的創作物は、著作権法上美術の著作物として保護される」と述べているが、本件広告(1)は、三和通商の商品売込みに役立てるために、商品名や自己の会社名をその構成に不可欠の要素としており、このような記載は、「実用に供し産業上利用する目的のため美の表現において実質的制約を受け」るものであり「専ら美の表現を追求して制作されたもの」とは認められないので、右判決の立場からも本件広告(1)が法の保護を受けるに値しない。更に、大阪地決昭和四五・一二・二一無体集二・二・六五四は、高度の芸術性を備えていることを条件として、応用美術であつても著作権の対象となり得ることを認めたに過ぎず、本件広告(1)には到底該当しない。

本件広告(1)には創作性がない。鎖の環状の外側に配された一八個の工具の部品の写真は、すべて既存の商品カタログに掲載された写真を転用したものである。鎖の環状は、周囲を縁取るための常套手段としてポスターや広告などで頻繁に使われており、極めてありふれたものであつて何ら創作性を有しない。文字の部分についても、この種業界についてはいわば決まり文句であつて何ら独創的な表現ではなく、文字自体もありふれたゴチツク体である。

著作者は著作権者に複製権能を専有させるものであるから、侵害者にその侵害行為ありとするには、著作物の存在及び内容を知つたうえで、これを再生する意思をもつて目的物件を作成した事実を必要とする。しかるに、極東技研は、ジヤパン・トレードに広告を依頼した当時本件広告(1)の存在さえも知らなかつたのであるから、仮に本件広告(1)と本件広告(2)とが同一性を有するとしても、著作権侵害行為は成立しない。

(三)  同(三)(四)項は争う。

二  乙事件

1  当事者の求めた裁判

(一)  ジヤパン・トレード

主文一項、三項、四項と同旨

(二)  三和通商

(1) ジヤパン・トレードの請求を棄却する。

(2) 訴訟費用はジヤパン・トレードの負担とする。

2  ジヤパン・トレードの請求原因

(一)  ジヤパン・トレードは貿易振興に関するピーアール業務代理、外国出版物に関する広告業務代理等を目的とする会社である。

(二)  ジヤパン・トレードは、昭和五七年六月頃三和通商から外国出版物への広告掲載に関する注文を受け、米国及び英国の雑誌に三和通商の広告を掲載した。三和通商は右注文に際しジヤパン・トレードに対して、右広告の広告料金として合計金一〇四万六五〇〇円の支払を約した。

(三)  よつて、ジヤパン・トレードは広告契約に基づき三和通商に対して、広告料金一〇四万六五〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年五月一四日から完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  請求原因に対する三和通商の認否

請求原因(一)(二)項は認めるが、同(三)項は争う。

三  証拠<省略>

理由

一  甲事件について

1  請求原因(一)項の事実は当事者間に争いがない。

2  著作者人格権及び著作権に基づく請求について

(一)  本件広告(1)の著作物性について

現行法上著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい(二条一項一号)、美術の著作物には美術工芸品を含むものとされている(二条二項)。

ところで、本件広告(1)は、縦二九・七センチメートル、横二一センチメートルの一頁全面に、図案化された縦長で環状の鎖で画面の周囲を縁取り、その鎖の外側に沿つて一八個の工具の部品の写真を並べ、鎖の内側には、上部にタイトルとして「LIFTING GEAR FOR MARINE, OIL&ALLIED INDUSTRY」の英文字を大きく三行に掲げ、右タイトルの下方に正面から見たシルエツト状の石油採取設備の図案を配し、その脚部以下に暗色を配して鎖の内側下方の過半を波ないしは海洋として表現し、右石油採取設備の図案の下方左側に取扱商品として、「BARGES」「ANCHORS」「CHAINS」「WIRE ROPES」「SHACKLES」「WIRE ROPE CLIPS」「RIGGING SCREWS」「LORD BINDERS」「STELL VALVES」の英文文字を並べ、その右側にバルブの写真を配し、鎖の内側の最下方に三和通商の英文呼称である「SANWA INDUSTRY CO., INC.」その他業態、住所、電話番号などを示す英文文字が表示されている。このようにして、本件広告(1)は、その視覚的効果を考慮して、右図案化された環状の鎖、シルエツト状の石油採取設備、波ないしは海洋を表現するための暗色、一八個の工具の部品の写真、バルブの写真及びそれぞれの各英文文字を構成素材としてこれを一紙面に釣合よく配置し、見る者をして、全体として一つの美的な纒まりのある構成を持つものとして表現されている。

右認定した本件広告(1)は、その表現形態に照らせば、これによつて表現しようとする事柄の内容面から見れば単に三和通商の提供するサービス及び商品を示したに止まるが、その表現形式に目を向ければ、全体として一つの纒まりのあるグラフイツク(絵画的)な表現物として、見る者の審美的感情(美感)に呼びかけるものがあり、且つその構成において作者の創作性が現われているとみられるから、かようなグラフイツク作品として、法一〇条一項四号が例示する絵画の範疇に類する美術の著作物と認め得るものである。

もつとも、本件広告(1)は美術工芸品(法二条二項)に属しないことは明らかであり、そこから、商業広告の如きは、これをその他の応用美術として法の保護範囲に納め得ないのではないかとの問題が存するが、左記現行法制定の経過に鑑みれば、前認定のようなグラフイツクな作品は商業広告であつても著作物として法の保護範囲に属するものと解すべきである。

すなわち、現行法制定過程において、昭和四一年四月二〇日文部大臣に対し提出された著作権制度審議会の答申は、応用美術の取扱いについて、(1)保護の対象を、<イ>実用品自体である作品については美術工芸品に限定し、<ロ>図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられていることを目的とするものについては、それ自体が美術の著作物であり得るものを対象として、これらを著作権法による保護を図るとともに、意匠法等工業所有権制度との調整措置を講ずることが望まれるとしながら、(2)右調整措置を円滑に講ずることが困難なときは、当面、<イ>美術工芸品の保護を明らかにし、<ロ>図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、著作権法には特段の措置を講ぜず、原則として意匠法等工業所有権制度による保護に委ね、但し純粋美術の性質をも有するときは美術の著作物として取扱い、<ハ>ポスター等として作成され、またポスター等に利用された絵画、写真等については、著作物あるいは著作物の複製として取扱うこととする(右答申第一の四)とし、更に右(2)の立場につき、右答申の付属書として前同日同審議会から文部大臣に提出された同答申説明書において、「右のような工業所有権制度との調整措置については、現時点においては、その円滑な実施には、なお困難があると考えられる。また基本的に、図案等については、著作権制度、工業所有権制度双方の利点を取り入れた別個のより効果的、合理的な保護制度の検討も考慮される要があり、国際的にも、そのような動向がみられるところである。よつて、右の調整措置の法制化が困難である場合には、今回の著作権制度の改正においては、美術工芸品の保護を明らかにするほかは、おおむね現状を維持することとし、将来において図案等のより効果的な保護の措置を考究すべきものとした。すなわち、図案等については、原則として意匠法等による保護に委ね、著作権法においては特段の措置を講じないこととするが、量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的として製作されたものであつても、それが同時に純粋美術としての絵画、彫刻等に該当するものであれば、美術の著作物としての保護を受けうるものとする。また、ポスター、絵はがき、カレンダー等として作成され、あるいはこれらのグラフイツクな作品に利用された絵画、写真等については、形式的には、意匠法との重複の問題があるが、その性質上、図案等におけるような問題の生ずる余地はないと考えられるので、単純に、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととした。」(同答申説明書第一の四の6)と説明している。そして、法は右答申の(2)の立場で立法化されたものであるから、その解釈においても右答申説明書が重要な指針となるが、これによれば、ポスター、絵はがき、カレンダー等として作成され、あるいはこれらグラフイツクな作品に利用された絵画、写真等については著作物として保護されるものと解されるところ、それは、ポスター、カレンダー、絵はがき等は大量生産され実用に供されるものであるから、形式的には意匠法との保護の重複の問題が生じるが(意匠法施行規則別表第一の三一からも明らかなようにこれは意匠法上の物品となり得る)、その性質上図案等の場合のように産業界に混乱を生ずるという問題は起こらない(前掲答申説明書第一の四の4、6参照)との考えによるものであつて、そのことは本件グラフイツク広告の如きものにも通用し得ると思われるからである。

なお、三和通商は、本件広告(1)は法一二条一項の編集著作物であるとも主張するが、編集著作物とは、英語単語帳、職業別電話帳のように単なる事実、データーを素材にして編集したものか、百科事典、新聞・雑誌、論文集のように既存の著作物を素材にして編集したもので、一定の方針あるいは目的の下に多数の素材を収集し、分類・選択し、配列して作成された編集物でなければならない。従つて、本件で問題となつているような商業広告が編集著作物と認められるためには、例えば、多数の商業広告を収集して、一定の方針あるいは目的の下に分類・選択し、配列して作成された編集物でなければならず、本件広告(1)のようにたつた一つの広告に過ぎないものは「編集物」とはいえず、編集著作物とは認められない。

(二)  本件広告(1)の著作者人格権、著作権の帰属について

証人中川文雄の証言により成立が認められる甲第九号証の一・二、証人中川文雄、同宮田叔育の証言によれば、三和通商の業務部長中川は、ジヤパン・トレードの担当者早川に対し、三和通商のカタログに記載されている工具の部品の写真、三和通商で撮影したバルブの写真、英文文字で記載されたタイトル、九個の商品名、三和通商の英文呼称などを記載した英文タイプを手渡し、スタツトリング(錨をつなぐ鎖)の写真を見せて、これを図案化した環状の鎖で周囲を縁取り、その鎖の外側に沿つて工具の部品の写真を並べ、鎖の内側には、バルブの写真、石油採取設備の図案、英文文字で記載されたタイトル、取扱商品名、三和通商の英文呼称などを配置してほしいと言つて、鉛筆で紙の画面周囲に縦長で環状の線を引き、その線の外側に沿つて工具の部品を並べ、その内側にバルブ、石油採取設備などをごく大まかに書いたラフなスケツチを交付したこと、早川は、正面から見たシルエツト状の石油採取設備の図案をどこからか調達し、中川から交付された写真、英文タイプ、鉛筆で書かれたラフなスケツチと共に広告デザイナーの宮田に交付し、中川から指示されたとおりの広告原画を作成するよう宮田に依頼したこと、宮田は、図案化された環状の鎖をデザインし、早川から提供されたシルエツト状の石油採取設備の図案、工具の部品の写真、バルブの写真及びタイプされた英文文字を拡大したり縮小したりしたうえ、図案化された環状の鎖で画面の周囲を縁取り、その鎖の外側に沿つて一八個の工具の部品の写真を並べ、鎖の内側には、上部にタイトルを表わす英文文字を大きく掲げ、右タイトルの下方に石油採取設備の図案を配し、同図案の下方左側に取扱商品を表わす英文文字を配し、その右側にバルブの写真を配し、鎖の内側の最下方に三和通商の英文呼称などを配したうえ、出来あがつた原画を早川に交付したこと、早川は、右原画を中川に見せて承諾を求めたところ、中川から、石油採取設備の図案の脚部以下に暗色を配して波ないしは海洋として表現するようにと指示されたので、その旨宮田に伝えたこと、宮田は、石油採取設備の図案の脚部以下に暗色を配し、本件広告(1)の原画を完成させて、ジヤパン・トレードから一万円余りのデザイン料を受取つたこと、ジヤパン・トレードは、三和通商から本件広告(1)の広告料金として一三万五六〇〇円を受取つたが、そのうち一万五六〇〇円が本件広告(1)の制作代金であつたこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件広告(1)の素材の大部は中川が提供し、環状の鎖のデザインや波ないしは海洋を表わす暗色も中川の指示によるものであり、その素材の配置についても中川の意向が大きな割合を占めてはいるが、宮田も広告デザイナーとしての芸術的な感覚と技術を駆使して、鎖の図案を自らデザインし、素材を拡大したり縮小したりしたうえ見る者の視覚に訴える位置に効果的に配置して、本件広告(1)の原画を完成させたのであり、それ故にこそ、ジヤパン・トレードを介して三和通商から本件広告(1)のデザイン料として一万円余りを受取つたのであるから、中川と宮田の共同の創作行為によつて一つの著作物が作られ、しかも右両名の寄与分が出来上つた著作物のなかに完全に統合一体化されてしまつていて、その部分だけを分離して個別に利用することができないことが認められるので、本件広告(1)は三和通商(法一五条の法人著作である。)と宮田の共同著作物(法二条一項一二号)と認めるのが相当である。

(三)  著作者人格権及び著作権の侵害について

本件広告(2)は、画面の右上から左下にかけて斜めに細長で環状の図案化された鎖を配し、その鎖の内側に一七個の工具の部品の写真を並べ、画面の一番上と下にそれぞれ横方向一杯にワイヤーロープの図案を配し、画面上部のワイヤーロープの真下にタイトルとして「LIFTING GEAR FOR MARINE, OIL&ALLIED INDUSTRY」の英文文字を大きく掲げ、右タイトルの下方で鎖の外側左寄りに斜め上方から見たスケツチ風の石油採取設備の図案を配し、その脚部付近に波の図案及びその上方に水平線を表わす直線を配し、鎖の外側右寄りに取扱商品として「BARGES」「ANCHORS」「CHAINS」「WIRE ROPES」「SHACKLES」「WIRE ROPE CLIPS」「RIGGING SCREWS」「LORD BINDERS」「STEEL VALVES」の英文文字を並べ、右英文文字の下方にフエア・リーダー及びパワー・ウインドラスの写真を配し、画面下部のワイヤーロープの上方に極東技研の英文呼称である「FAR EAST INDUSTRIAL CO., LTD.」その他の英文文字が表示されている。

すると、本件広告(1)と本件広告(2)とは、英文文字で記載されたタイトル、商品名、環状の鎖の図案、工具の部品の写真は同一であり、証人中川文雄の証言によれば、本件広告(1)に列挙されている英文文字で記載された商品名のうち、「LORD BINDERS」とあるのは「LOAD BINDERS」の誤植であるが、本件広告(2)にも誤植のまま使用されていることが認められる。

しかし、前説示のとおり、本件広告(1)が著作物と認められるのは、本件広告(1)が前認定の構成・素材を総合的に釣合よく配置構成して、見る者をして全体として一つの纒まりのあるグラフイツクな作品と見させることによるものであるから、その著作物としての表現形式上の本質的特徴部分を形成する個性的表現部分は、右具体的な構成と結びついた特徴のある表現形態から直接把握される部分に限られ、前記個々の構成・素材を取り上げたアイデアや構成・素材の単なる組合わせから生ずるイメージなどの抽象的な部分にまでは及ばないものと認めるのが相当である。

そのような見地において、本件広告(1)と本件広告(2)との表現形式上の本質的な特徴部分を抽出してみると、前者は、図案化された縦長で環状の鎖で画面の周囲を縁取り、その鎖の外側に沿つて一八個の工具の部品の写真を並べ、鎖の内側上方に正面から見たシルエツト状の石油採取設備の図案を配し、その脚部以下に暗色を配して鎖の内側下方の過半を波ないしは海洋として表現し、石油採取設備の図案の下方右側にバルブの写真を配した点にあり、後者は、図案化された細長で環状の鎖を画面の右上から左下にかけて斜めに配し、その鎖の内側に一七個の工具の部品の写真を並べ、画面の一番上と下にそれぞれ横方向一杯にワイヤーロープの図案を配し、鎖の外側左寄りに斜め上方から見たスケツチ風の石油採取設備及び波の図案を配し、鎖の外側右寄りにフエア・リーダー及びパワー・ウインドラスの写真を配した点にあつて、左に比較するようにその表現形式上の本質的な特徴部分が相当異なり、本件広告(2)が本件広告(1)からある程度の示唆を受けて作成されたものとしても、本件広告(1)の著作物としての表現形式上の本質的な特徴は、本件広告(2)の独自の創作性の陰に穏れて直接感得できなくなつているものというべく、本件広告(2)は、本件広告(1)の単なる複製でも翻案でもなく、本件広告(1)の著作者が有する著作者人格権や著作権を侵害しないものと認めるのが相当である。すなわち、

(1) 本件広告(1)は、図案化された縦長で環状の鎖で画面の周囲を縁取り、その鎖の外側に沿つて一八個の工具の部品の写真が並べられているのに対し、本件広告(2)は、図案化された細長で環状の鎖を画面の右上から左下にかけて斜めに配置し、その鎖の内側に一七個の工具の部品の写真が並べられている。

(2) 本件広告(2)は画面の一番上と下にそれぞれ横方向一杯にワイヤーロープの図案が配されているのに対し、本件広告(1)はそのようなワイヤーロープの図案がない。

(3) 本件広告(1)は、鎖の内側上方に正面から見たシルエツト状の石油採取設備の図案を配し、その脚部以下に暗色を配して鎖の内側下方の過半を波ないしは海洋として表現したのに対し、本件広告(2)は、鎖の外側左寄りに斜め上方から見たスケツチ風の石油採取設備及び波の図案を配している。

(4) 本件広告(1)は、鎖の内側で石油採取設備の図案の下方右側にバルブの写真が配されているが、本件広告(2)は、鎖の外側右寄りにフエア・リーダー及びパワー・ウインドラスの写真が配されている。

3  広告委託契約違反及び不法行為に基づく請求について

(一)  三和通商は、本件広告(1)に関する広告委託契約の消極的効果として、ジヤパン・トレードが三和通商と競業関係にある第三者のため、三和通商の許諾なく広告代理業務をなすべきでない義務を負うと主張する。

一般に、広告主と広告業者間の広告取引に関する契約関係は、広告主が広告業者に対して、広告主自身が制作した広告を広告媒体に露出することを依頼する広告取次の委託・引受契約と、広告の取次だけでなく広告の制作まで依頼する広告制作の委託・引受契約まで伴うものとが存し、前者の取次の委託の実質は委任といえ、後者の場合請負契約関係が成立するといえようが、いずれの場合にも、広告業者が複数の同業種の広告主と取引することが商法四八条により規制されるものとは解し難く(少くとも、自己又は第三者の為本人の営業の部類に属する取引を為すものではない)、右契約関係の下においては、広告業者が広告主と競業関係にある第三者のためにも広告代理業務をなすことは自由である。従つて、広告主と広告業者間において、広告業者が広告主と競業関係にある第三者のため広告代理業務をなすべきでない明示の特約が存するか、若しくはこれに準ずるような特段の事情ある場合は格別、一般的には広告業者に主張のような消極的義務を認めることはできない。

本件においても、証人中川文雄の証言によれば、三和通商が長期間多数回にわたり、ジヤパン・トレードとの間で広告の制作及び取次の委託契約を締結していたことは認められるが、右特約若しくはこれに準ずる特段の事情は認められない。

(二)  更に三和通商は、本件広告(1)に関する広告委託契約の消極的効果として、ジヤパン・トレードが、三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果(イメージ)を第三者に利用・承継させて、その営業権ないし営業上の利益を違法に侵害すべきでない義務を負うとも主張する。

一般に、商業広告は商品・役務に関する情報を消費者に提供して、その価値を多くの人に知らせることにより、市場を開拓し確保することを主な狙いとし(日本商工会議所・広告向上のための指針より)、広告主はその達成により営業上の利益を獲得しようとして、一定の費用で右広告効果をできるだけ挙げることを目的として、広告業者との広告委託契約の締結に及ぶのであるから、該契約の申込に当つては、その相手方たる広告業者が、右契約により知得するであろう知識等を不正に流用することによつて、右広告の狙いとする広告効果が毀損・減少されて、営業上の利益の毀損に繋がるような行為が行なわれないであろう期待と信頼の下に、右契約の申込をなしているものと考えて差支えない。そうであれば、その相手方となつて該契約の申込に応諾した広告業者においては、該契約に伴う信義則上の付随義務として、右契約により知得した知識等を不正に流用して、広告主が右広告によつて挙げ又は挙げつつある広告効果を第三者に利用・承継させ、広告主の広告効果を毀損・減少させることによつて、広告主の期待利益を損うことのないようにすべき義務を負うべきものということができる。

従つて、広告主(甲)から特定の広告(A)の露出又は制作を委託された広告業者は、広告Aがその特徴ある表現形態によつて甲の広告として価値ある広告効果を挙げ又は挙げつつある場合には、前示契約に伴う信義則上の付随義務として、第三者(乙)の委託によつて、広告Aと共通した広告イメージを持つ広告(B)を制作・露出することにより、広告Aの広告効果を乙に利用・承継させて、甲に帰属した広告Aの広告効果を毀損・減少させてはならない義務を負うものと解するのが相当である。そして、如何なる場合に右広告効果の毀損・減少が認められるかは、広告Aの個性的表現の強さ、広告Aの甲の広告としての周知性獲得の度合、広告Bの表現形式の広告Aのそれとの類似性の度合、広告Bの広告媒体への露出頻度、両広告の媒体が同一又は類似するか否か、両広告の受け手が同一か否か、甲・乙の業種の同一又は類似性を総合的に勘案して判断するのが相当である。

かかる見地から、ジヤパン・トレードの債務不履行責任の有無について考察するに、証人中川文雄、同多田勝美の証言によれば、三和通商、極東技研の両会社ともに、その営業種目としてマリン機器装置、船舶関連機器の輸出部門を有しており、本件広告(1)(2)ともに、外国のバイヤー向けにマリン機器装置、船舶関連機器を売込むために作成された広告であることが認められ、又、本件広告(1)は大阪商工会議所発行にかかる海外向けの「大阪事業名簿一九七八―七九年版」の特別三ページ(序文の裏、目次の左ページ)の全紙面(縦二九・七センチメートル、横二一センチメートル)に掲載されたが、本件広告(2)も同一出版物の一九八〇―八一年版の同一場所に同じ大きさで掲載されており、右両広告は、広告掲載の時期こそ異なるものの、広告媒体、場所及び紙面の大きさまで全く同一である。しかし、本件広告(1)は、個性的表現部分が前認定のとおりその具体的な素材とその構成に結合した極く限られたものであつて、本件広告(1)と本件広告(2)とでは表現形式上の本質的な特徴部分が相当異なり、本件広告(1)の表現形式上の本質的な特徴が本件広告(2)の独自の創作性の陰に穏れて直接感得できなくなつていること、本件広告(1)は昭和五三年に発行された「大阪事業名簿一九七八―七九年版」にたつた一回掲載されただけであるうえ、本件広告(2)は、それから二年後の昭和五五年に発行された「大阪事業名簿一九八〇―八一年版」と、それから更に三年後の昭和五八年春に発行された「イエロー・ページ日本電話帳一九八三年春季版」に、いずれも一回ずつ掲載されたに過ぎないこと、三和通商は、本件広告(1)と同一ではないが共通したイメージを有する広告を、「アラビツク一九七八年三月号」(弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一七号証の三)、「トレード・チヤネル一九八〇年二月号」(同第一九号証の二)、「同年五月号」(同第二〇号証の二)、「同年七月号」(同第一九号証の三)、「同年九月号」(同第二一号証の二)に掲載しているが、「アラビツク」はアラビア語で記載された業界紙であり、「トレード・チヤネル」はオランダで発行されている月刊新聞であるため、本件広告(1)(2)の広告対象者との類似性が稀薄であることに照らせば、ジヤパン・トレードが、三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果を極東技研に利用・承継させて、右広告効果を毀損・減少させたものとまではにわかに認めがたく、ジヤパン・トレードに対して債務不履行責任を問責することは困難である。

(三)  三和通商は、極東技研がジヤパン・トレードと共謀のうえ故意に本件広告(2)を掲載発表して、三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果(イメージ)を利用・承継し、三和通商の営業権ないし営業上の利益を違法に侵害したと主張する。

しかし、前示のとおり、本件広告(2)が「大阪事業名簿一九八〇―八一年版」と「イエロー・ページ日本電話帳一九八三年春季版」に各一回ずつ掲載されたことが、三和通商が本件広告(1)によつて挙げた広告効果を利用・承継して、三和通商の広告効果を毀損・減少させたものとまではにわかに認めがたいので、その余の点について論じるまでもなく、極東技研に対する不法行為に基づく請求も理由がない。

二  乙事件について

請求原因(一)(二)項の事実は当事者間に争いがなく、訴状送達の翌日が昭和五八年五月一四日であることは記録上明らかである。

三  結論

してみると、三和通商の請求はいずれも理由がないので棄却し、ジヤパン・トレードの請求は理由があるので認容することとして、民訴法八九条、一九六条一項を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 紙浦健二 徳永幸藏)

第一目録(1)

絵画である鎖の環状を中央に配し、その外側には、一八個の工具の部品の写真を並べ、また、その内側には、上に大きく「LI-FTING GEAR FOR MARINE, OIL&ALLIED INDUSTRY」と示し、下に取扱商品として「BARGES」「ANCHORS」「CHAINS」「WIRE ROPES」「SHACKLES」「WIRE ROPE CLIPS」「RIGGING SCREWS」「LORD BINDERS」「STEEL VALVES」を例示するほか、石油採取設備を正面からみたところの絵画およびバルブの写真を付して、三和通商の英文呼称である「SANWA INDUSTRY CO., INC.」などを表示された広告(別紙広告(1))

広告(1)<省略>

第一目録(2)

絵画である鎖の環状を中央斜めに配し、その内側には、一七個の工具の部品の写真を並べ、その外側には、上に大きく「LIF-TING GEAR FOR MARINE, OIL&ALLIED INDUSTRY」と示し、右に取扱商品として「BARGES」「ANCHORS」「CHAINS」「WIRE ROPES」「SHACKLES」「WIRE ROPE CLIPS」「RIGGING SCREWS」「LORD BINDERS」「STEEL VALVES」を例示するほか、石油採取設備を斜上方よりみたところの絵画およびワイヤ巻取機など工具の写真を付し、極東技研の英文呼称である「FAR EAST INDUSTRIAL CO., LTD.」などを表示された広告(別紙広告(2)―a、b)

広告(2)―a<省略>

広告(2)―b<省略>

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